短いランチタイムを立ち食いそば屋ですごす。
べつに「すごす」ような場所じゃないんだけど、となりの他人と肩を並べ、せわしく蕎麦をすする光景に、日本の底力を見る思いがしてくるのだ。若いサラリーマンが年配の男に「部長、食べるの速いっすねー」なんていってる。
日本の立ち食いそば屋には平社員もいれば社長もいる。労働者も教師も学生も先生も主婦も、たぶん女子高校生も来て、おなじメニューを注文する。吉野家も似たようなものだし、マクドナルドにしたってそうだ。
日本以外の国は必ずしもそうでない。
まず、経営者と従業員がおなじ店で同じものを食べたりしなければ、満員電車で乗り合わせることもない。高額所得者と低所得者が、同じ場所で同じことをする機会もほとんどない。例えばアメリカ。クルマ社会ということもあり、住宅地の区分けがびしっとされている。だから自分とちがう社会階層とふれあう機会は、ほぼない。同じスーパーで買物をすることもない。
これがなにを意味するか?
上の人たちは下の人たちの事情を知らないし、下の人たちもまたしかり。理解も関心もない。「無関心」こそは憎悪よりもたちがわるい。世界の格差は広がるいっぽうだが、理由のひとつにこの「無関心」があるように思う。鳴り物入りのオバマ政権だが、フタを開けてみれば金持ち優遇、貧乏人冷遇の減税政策で、結局ブッシュと何も変わらない。今やアメリカ人はその資産内容でくっきり分別され、貧しい家に生まれたら一生貧乏暮らしで終わるような国になってしまった。わずか1%の金持ちの人たちが持つ資産が、全米国民総資産の半分を占めているという現実。アメリカンドリームどころか、中世身分社会に逆戻りしただけである。「なにがチェンジだ?期待して損した」というのが国民の本音である。
アメリカの没落はだいぶ前から言われていたけど、ここにきてほんとうに加速度が増している。17世紀のオランダが、20世紀初頭のイギリスがそれぞれにたどってきた同じ道をアメリカも歩んでいる。
オランダが没落した理由は意外と知られていない。
いろんな歴史家が、政治が脆弱だったから、とか、軍事力が弱小だったから、などといっているがそうじゃない。生産活動を労賃の安い場所に移し、自分たちでモノを作らなくなったからだ。
労賃の安い地域に移転するだけで儲かることを知れば、もう誰も苦労して基礎研究や技術革新に取り組まなくなる。結果、国民が怠け者になる。いかに手っ取り早く儲けるか?そのことばかりを追求しようとする。利益効率を突き詰めれば、やがて資源や資金ビジネスに到達するだろう。金融工学を駆使し、夢のような、実は詐欺のような金融商品をこしらえてはつぎつぎと利ざやをかせぐ。成功すれば自分たちだけが儲かり、失敗しても政府や庶民に補填させる。
そんな人たちに金と権力が集まれば、その力を利用して政治に口出しし、自分たちばかりを守るような法案を通し施行するよう為政者を操る。それによって苦しむ大勢のことなど無関心だ。ばかみたいだけど、歴史はそんな人たちに膨らまさせ萎まされている。まあいずれにしても、そんな国は長くない。オランダは没落し、イギリスも没落した。いまのアメリカもそうなるだろう。覇権は移動するのだ。遅れて中国もそうなるかもしれない。この国の人達は人のフンドシで相撲ばかりするからだ。
ひるがえってみればこの日本。
なんだかんだといっても、あいかわらず東京や大阪の町工場で世界的な技術革新が生まれている。エライ人も庶民も同じ釜でゆでた蕎麦をすすり、身分立場に関係なくおなじ満員電車に揺られる。大震災で被災した人たちの痛みを少しでも共有しようとする。暑くてもクーラーを我慢し、代わりに「ひんやりグッズ」が売れる。少々の放射能がついていようがいまいがかまわず福島の野菜を食べる。
そういうところはほんとにスゴイ。「自分だけこっそりいい思いをする」ということにすごく罪悪感を覚える。なにも宗教に縛られているわけでもないのに。
いろんな国でいろんな人たちを見てきたけど、
こんな人たちはちょっとお目にかかれない。
あんがい次の覇権は日本ではないか?
でも、日本人は覇権なんて望んですらいないだろう。
みんな幸せならいいのになと、わりと本気で思ってる。
そんな事をつらつら思いつつ、ぼくは音をたて蕎麦をすするのだ。
肘がとなりのひとに当たり、「すみません」とか言いながら。
最近のコメント