イエメンの片田舎に10歳の女の子。名前をノジュオドという。
どこにでもいるかわいい普通の女の子だが、それまで住んでいた村を追われ、都会のサナアへ越したことがきっかけで事情が変わってくる。
父親はそこで失業し、母親や兄弟姉妹たちを食べさせていけなくなった。生活保護もなく、貧しい者は貧しいままのイエメン。かろうじて日雇いのアルバイトにありつく。1日520円でどんなことでもしなければならない。仕事がどれほど危険であろうとも。
▲ 世界遺産にもなっている美しいサナアの街並みだが・・
「食いぶちを減らさなければ・・」
そう思った父親が目を向けたのは娘。13歳の姉はすでに嫁がされており、次は10歳のノジュオドである。結婚の申しいれをしてきた相手は30歳の男。お願いした相手はノジュオドにではない。彼女の父親である。
ちょっとまて、これは犯罪ではないのか?とあなたは思うだろう。
犯罪如何に構わず、申し入れからたった2週間で結婚式の日取りが決められる。新婦新郎が互いに顔を合わすことはない。男達だけで進められる。母親や姉はそのことに抗議することさえできない。自分もまた、そうであったからだ。
父親は悲しみに暮れる母親に告げる。
「心配するな。ノジュオドには最初の生理が来てから一年間は触らないように、やつに約束させた」
貧困こそはその人間を、その人間を取り巻くあらゆる環境を生臭く暴いて見せる。この家族に降りかかった災難は、まだ生理すら来ていない娘を嫁に出さねばならないという現実だった。信じがたいが、その現実は父親によってもたらされた。
もちろんそんな約束など、これっぽっちも守られない。
嫁いだその日の夜、助けて!と叫び、逃げまわるノジュオドに襲いかかる夫。見て見ぬふりの義母、義兄弟。言う事を聞かないからと、最初は拳で、やがて棒を使って殴る夫。それが幾日も幾日も、何十日も、毎晩求め、そして殴る・・・
このことをぼくは本で知った。
悲しいことに実話である。
晩婚化が進む先進国とはうらはらに、世界の至る所で幼妻が無理やり結婚させられている。児童婚は多くの国では法律で禁止されている。このイエメンもだ。だが現実はそうじゃない。インドでもサウジアラビアでもアフガンでもエチオピアでも中国でも、それは行われている。少女を誘拐し、レイプしてから妻にする例も少なくない。
イスラム教やヒンドゥー教では婚前交渉は死罪に値する。
だから、そういう事が起こらないようにと女性にベールをつけさせ、夫以外の男に肌を見せることを禁じている。結婚前に処女を奪われようものなら家族の面目は丸つぶれである。男尊女卑の世界だ。特に父親の名誉は大いに傷つけられる。
だが守っているのは娘なのか、それとも名誉なのか?
父親は娘に学校をやめさせ、どこかへ嫁がせる。それは貧困のせいかもしれないが、驚くべきことは周囲もそれが普通のことだと思っていることだ。児童婚の背景には、もはや貧困だけでは語れない深刻さが横たわっている。預言者ムハマンドの妻アイーシャが嫁いだのは9歳、という言い伝えを信じる人々もいまだ多いのだ。
10歳の少女の身体は本来、性交や出産に耐えられるようには出来ていない。そのことはだれだって知っているはずだ。膣壁に裂傷が生じたり、その裂け目が直腸や肛門まで広がる。性行為により内臓破裂で死にゆく幼娘を、父親は「名誉のための死」と片付けてしまうのだろうか。
ぼくは言いようのない怒りの鎮め先を探す。
この本の主人公、ノジュオドはある日、ほんのちいさな好機を捕らえ、裁判所に駆けこんだ。そこで人づてに判事をつかまえ、直接事情を話し、助けを求めた。そのできごとが異例だったのは「児童婚」そのものというよりは、少女が裁判を起こそうとしたことだ。イエメンでは少女はおろか、大人の女性が告訴すること自体が珍しい。ノジュオドにはジャーダーという女性弁護士がついた。幸運であった。おかげで裁判にも勝訴することができた。
こうしてノジュオドは2008年11月10日、
世界最年少で離婚した少女となった。
このことはアラビア半島に住む、他の多くの少女に勇気を与えることになった。9歳のアルワーや12歳のリームもだ。サウジアラビアでは8歳の幼妻が50代の夫に対して離婚の申請をし、受理をめぐって裁判所で検討中という。
世の中には知らなくていい情報も多いが、
知らねばならない情報もある。
そのイエメンは現在、市民135人が死亡するなどの内戦状態。
早期辞任を約束しながらそうしない大統領に鉄槌をと、反体制派が武力蜂起。官邸に迫撃砲を発射。サレハ大統領は負傷。辞任を言っただの言わないだのは菅首相もそうだが、ここがイエメンでなくてよかったと思うだろうか?でもまあ、別に菅さんじゃなくたって、ここがイエメンでなくてよかったと思うだろうけど。
- 作者: ノジュオド・アリ,デルフィヌ・ミヌイ,鳥取絹子
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2010/04/29
- メディア: 単行本
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