きょうは何ベクレル?何シーベルト?
巷では放射線量のことが語られ、まるで天気予報のようである。
政府発表の数字が疑わしいからと、自分で測定器を持ち歩く人もいる。すでに通販では売り切れてしまい、海外から取り寄せる動きもある。そのうち放射線量しだいで外出するかどうかを決めたり、夕飯の献立を決めたりしちゃうかもしんない。
福島ナンバーの車が駐車拒否されたり、福島県からの宿泊客を拒否するホテルや旅館が出始めた。大人がこうだと、子供たちが心配だ。疎開してきた子供たちはいじめられていないだろうか?そうならないようにと、被曝線量検査にパスしたという「証明書」を求めて市民が保健福祉施設に殺到している。せつないものだ。あいかわらず日本人はヒロシマ・ナガサキから何も学んでいない。「ヒバクシャ」という差別用語にどれだけの人々が苦しんだことか。
とはいえ、とめようったって風評は止まらない。
あおる人たちがいるし、なんといっても放射能は話題性がある。
日本人特有の潔癖症と悪平等意識がこれを増幅させる。「ニッポンはひとつ」には(ただし普通の人のみ)ということなのだろう。
過剰反応は、なにも日本人に限ったことじゃない。
福島第一原発一号基が爆発を起こしたとき、被曝を恐れて外国人たちが一斉に東京をあとにした。その時の東京はせいぜい0.1マイクロシーベルト/時。祖国に避難しようと飛び乗った機内の放射線量は7.3マイクロシーベルト/時もある。地上より上空のほうが放射線量はずっと多い。またフランス人の逃げ足の速さには感動すらしたが、平時のパリの放射線量は、3月16日の東京よりも多いということを知ってのことか?
自然放射線の世界平均は0.27マイクロシーベルト。
ヒトもトリもイヌもオサルもゾウさんも、放射線を浴びながらこうして元気に生きている。浴びるどころか自ら放射線を発しながら生きている。
ロバート・P・ゲイル博士という放射線被曝治療の専門家がいる。かのチェルノブイリ原発事故では、ソ連政府に頼まれて救命活動にも従事した。さっそく福島原発事故後は日本にも訪れ、日本政府関係者と意見交換がなされた。
ゲイル博士によれば、日本政府は頻繁に放射線データを発表し透明性を確保しているが、政府内に放射線に詳しい専門家がいないためかえって混乱を招いているという。説明ベタという問題はあるにしても、放射能汚染リスクの対処はきちんとおこなわれていると評価している。
放射能物質は人体にどう影響するのか?
説明ベタなのはまずそのことをわかりやすく説明していないからだと思う。安全か安全でないかの判断基準は?ただちに影響とそうでない影響はなにがどう違うのか?不安に怯える国民はまずそのことが知りたいのだ。
黒鉛による核分裂まで引き起こしたチェルノブイリ原発事故は、軽水炉原発の福島のそれとは比べものにならないくらい高レベルの放射線量を撒き散らした。漏らすなんてもんじゃない、噴き上げたのだ。また、溶けた放射能物質が土壌に染みこみ地下水まで到達したから、それを吸い上げる木々も草も合流する川も、それぞれが高濃度で汚染されてしまった。だのに、しばらく30km圏内でとれたミルクは出荷し続け、作物は搬出され続けた。消防員も避難民もマスクひとつ付けなかった。
事故を起こした4号機はコンクリートで封印された。
いわゆる「石棺」である。
隣接する他の原子炉が完全閉鎖されたのは事故後5年後の91年。だが、あろうことか93年に運転が再開されている。理由はウクライナの電力不足、実は失業問題である。運転再開によって職員9000人の首がつながった。チェルノブイリ原発が担う発電量はウクライナで消費される電力のわずか3%、「節電すればいいじゃん」というレベルである。その後、老朽化が進み、国際批判もあったりで2000年になってようやく全プラントが運転を停止した。
チェルノブイリの悲劇はソ連の秘密主義もあったが、高濃度で汚染された区域(平均175ミリシーベルト)で「石棺」を作り原発のすぐそばでクリーンアップするのに86万人もの労働者を投じたことである。これによって事故や被曝による死者は5万人を超えた。なんといっても広島原爆の500倍の放射能である。無事であるはずがない。
いったん30km圏外に避難したはずの付近の村の住民は一年も経たないうちにポツポツと戻り始めた。モスクワの生活が耐えられず「村のきれいな空気が懐かしくてねえ」というお婆さんもいた。戻ってみると飼っていたネコもちゃんと生きていて、エサを求め村じゅうのネコが集まってきたという。このことは辺見庸の『もの食う人びと』に詳しい。
福島よりはるかに大惨事だったチェルノブイリ。
だが規模のわりに比較的被害者が少ないのは、人間の放射能排泄機能のおかげである。広島で被曝した両親もそうだったし、ぼく自身もたぶんそうだ。たとえば放射能物質セシウム137の半減期は30年といわれる。だがそれは試験管などの実験容器の中での数値であって、人の体ではない。
高田純という札幌医科大教授は、わざわざチェルノブイリまでいって汚染されたキノコなどを食べ、体内にセシウム137を取り入れたあと、その減衰具合について調べるために自ら人体実験になった。高い志である。その検査記録によると、セシウムは体内に取り入れられたあと、わずか4日で半減し、その後2年でほとんど無くなってしまったという。同じ放射性物質であるヨウ素などは試験管でも8日で半減するから、これはもう数日で無くなってしまいそうだ。
放射線は原発そばでなくても降り注ぎ、何か食べれば体内被曝は免れない。ヨウ素やセシウムも危険だが、それよりファーストフードや安い食肉に添加されている薬品、中国野菜の農薬のほうがある意味よっぽど危ない。
それより体内の放射能物質は体外に排出されにくいという定義を少し変えるべきではないのか、と思う。デトックスなら若くてきれいな女の子ならお手のものである。リンパマッサージを施せば、新陳代謝がゆるくなった中高年にも効果があるはずだ。
放射能に怯え、ましてや被曝者を差別するなどの浅ましい行いを防ぐためにも、政府には正鵠な状況説明をして欲しい。それから「そのほうが売れるから」と不安を煽る報道をマスコミは慎むこと。
それがマスコミにもできる被災者への支援だ。
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