緊迫する中東情勢。
どうなっているのか、どうなるのかが知りたくて、有料のWeb新聞とYouTubeばかりみている。各国のニュースをリアルタイムで見れるのはほんとうにありがたい。反面、日本のテレビや新聞がますますつまらない。番組CMのスポンサーの顔ぶれは、まさにその国のレベルと景況の合わせ鏡である。
「悪政を倒した民主化運動」とも「ソーシャルネットワーク革命」ともといわれるが、ジャスミン革命からこっち、アフリカ・中東各地で起こっている騒動の原因は食糧高騰がきっかけだ。感激屋がわかちあっているような「民主化」という美しいシナリオではないと思う。
なぜ世界で食糧高騰が起こったか?
ぼくたちはそこに着目すべきだ。入口と出口は同じなのだ。「どうなるか?」を知るには「なにがきっかけだったか?」がヒントになる。
きっかけは米ドルであり、米国債であった。
米国内の経済救済の必要性から、狂ったように発行され続けているドルのせいである。ふつう、お札は刷れば刷るほど価値が下がる。信用も下がる。米ドルはとっくに暴落してもおかしくないくらい価値が下がっている。もう、何年も前から。1ドル70円、60円、というのが自然な相場だとぼくは思う。円高が心配?その前になぜ米ドルばかりが国際取引の決済通貨のままなのか、こっちのほうがよっぽど心配である。
なぜ米ドルは高いままなのだろう?
米財務省が下がらないよう手をまわしているから、というのも考えられる。アメリカと結託している日本も片棒を担いでいる。親分を守るのが子分の役目というわけだ。米国債の価値が下がっていることは、まずアメリカ自身が心得ている。米ドルは紙くずになってしまうかもしれない。ならばと、現物交換をするむきもある。アメリカ国債を持つ連銀もロシアも中国も。有り余るドルを売り、国際商品とよばれる金や穀物、原油が買われる。おかげで国際商品価格がどんどん上がっている。いまも上がり続けている。
ドル崩壊の序曲が食料価格の高騰を招き、食料価格の高騰が暴動を招いたのだ。なんとも迷惑な話である。世界で最も迷惑をかけているのは中国のようにみえるが、実はアメリカである。
たとえば先のイラク戦争。
捉えられたサダム・フセインが処刑直前、アメリカ人看守に「なんでアメリカが攻めこんできたかやっぱりわからない、教えてくれ」と訊いたという。イラクが手の内をすべて公開してみせても大量破壊兵器はみつからなかった。以前はあったが、イスラエルの攻撃で破壊されていた。アメリカは、もうそんなものがないことくらい百も承知であった。その意味でサダム・フセインは冤罪のまま処刑されたということになる。イラクという国ごと。東京裁判もきっとこんなかんじだったんだろうな、と思う。
「何でもいいから、サダムをやっつける口実を探してくれ」
ブッシュが大統領就任直後の閣僚会議で放ったコメントである。本音がもれた瞬間だった。
彼は大統領をやめたあと静かに隠居生活をしているが、自宅の壁にはサダム・フセインが護身用に持っていたピストルが掛けられているという。そして、訪ねてくる友人たちにこれを指さして「これが大量破壊兵器だったよ」と冗談を言う。
もちろん居合わせる誰も笑わない。イラク戦争は質(たち)の悪い冗談で済ませるには、あまりにもたちが悪すぎる。
イラクは産油国である。しかも埋蔵量世界第二位といわれる。
世界中の石油の取引は米ドルで決済されるもの。それが掟だった。アメリカが過去から現在にいたるまで中東に関与し続けているのは、それを保持するためだ。けれどもその掟を破ったのがイラクのサダム・フセインだった。彼は原油を売るとき、あろうことかユーロで決済をした。法を犯したわけでもなく、禁止されているわけではないが、アメリカにとっては許されないことだった。イラクの掟破りに、リビアとヨルダンも続いた。アメリカにとってはまったなしだった。そこでアルカイーダをかくまってるといったり、大量破壊兵器を隠していることにした。どちらもサダムとは関係ない。ただのヤクザの言いがかりである。まずは捉えて殺せ、理由は後から考えるからと。
イラク戦争。
それは石油決済の覇権をめぐる、ドルとユーロの通貨戦争でもあった。だからこそユーロ圏のドイツとフランスはこれに強く反対したのだ。
とにかく、アメリカはドルを守るためならそこまでやる。
とはいえ地上戦はもう、こりごりである。アフガンとイラクの二の舞は出来れば避けたい。世論もうるさいが、それよりまず戦費がない。子分の日本に払わせる常套手段も、もはや有効ではない。金の切れ目が縁の切れ目、その意味で日本はすでに用済みである。代わりにソーシャルネットワークを使ったといえないだろうか。
一連の騒動で原油価格は半年間で4割も高騰した。
たぶんこれからも上がるだろう。原油価格が上がればインフレをもよおすが、不況(デフレ)のときにそれが起こればスタグフレーションだ。世界経済はよろよろ立ち上がり、再びリングに沈むのだ。もちろん、それはぼくたち日本の庶民にも影響する。
その下降ベクトルを計る一つの指標は、バーレーンだ。バーレーンの王朝が転覆することがあれば、同じ体制であるサウジアラビアまで影響する。スンニ派がシーア派に代わる。サウジアラビアは産出量、埋蔵量ともに世界一の石油産油国である。ここがサウジの王室がひっくり返れば、いよいよ石油価格の高騰は天井なしである。ひっくり返るのは、アラブの国だけではない。
代わりに主導権を取るイスラム原理主義者たち。窮するイスラエルは国家的終焉を感じたのか、最近になってラビをして「救世主の再来が近い」などと言い出している。その意味がわかるだろうか?人類滅亡のことである。
ここにきて、なぜアメリカがイラク戦争まで起こしてまで、原油決済通貨をユーロにさせなかったかがあらためてわかってくる。どれほど石油が上がろうと、米ドルで決済される限り、米ドルの需要が減らないのだ。ブッシュは底なしのバカだが、アメリカにとっては正しいことをした。正義はもう、二度と語れないが。
世界でどれほどの人間が泣こうが、わめこうが、死んでしまおうが、かまわない。そんなアメリカのなりふり構わなさに、いいかげんにしろといいたくなる。
アメリカはふたたび、あるいはなんども踊り狂う。
あたりに「民主主義のうさんくささ」を漂わせながら。
こまったアメリカちゃんである。
しかし地球はまだ、このこまったちゃんを叱ることのできる親を見つけていない。
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