不動の経済大国第2位の地位を中国に奪われた日本。
そんなこともありただでさえ中国脅威論が台頭するなか、尖閣漁船事件からこっち一部では「戦争か?」とまで騒いでいるひとたちもいる。 そりゃまあ、中国全土に広がる反日デモなどが報道されれば、中国人は本気で日本人を皆殺ししようとしているんじゃないか? などと心配になる気持ちもわからないでもない。
でも、はたしてそうだろうか?
冷静になって考えようじゃないか、というのが今回のテーマだ。
まず「尖閣諸島問題」。
尖閣諸島はなかなか頭の痛い問題である。 日本も中国も領土問題で相手に譲歩すれば、国内で叩かれまくるからだ。 そこで2005年、当時の自民党政府は中国と密約を交わし、「中国はこの島にデモ隊や運動家を島に近づけたり上陸させない代わりに、日本は漁船を拿捕するなどして逮捕者を出さない」ということにした。 とりあえず問題を棚上げしたというわけだ。
しかし今回の事件では逮捕者を出してしまった。
「話が違うじゃないか」と中国側は詰め寄るが、漁船ごとぶつかってこられたら法的に逮捕するしかないというのが日本の言い分。 客観的に判断すれば、挑発してきた中国側に分が悪い。 ただでさえ周辺諸国から恨みを買っている中国。 これらフィリピンやベトナム、インドネシア諸国は日本に加勢するだろうし、太平洋の大ボス米国も黙っていないだろう。 胡錦涛政権は口では威勢のいいことを言っているけど、内心は穏やかではなかったはずだ。 出来れば起こってほしくなかった問題である。 温家宝もさっそく日本にSOSを送った。 が、相手は自民党ではなく民主党政権。 密約は反故にされた。
そもそもなんでこんな事件が起きたのか? いったい誰が酔っ払い船長をして漁船を日本の海上保安庁の艦船にぶつけさせたのか?
ぼくは「中国の派閥抗争」こそがその答えだと思う。
中国は政治的には一党独裁ではあるけど、ちゃんと派閥があって互いに対立している。 ひとつは胡錦濤とトップとする共産党青年団、通称「団派」。 もうひとつは当幹部子弟の「太子党」。 次期国家主席として名高い習近平はこれに属する。 習近平は胡錦濤と違って軍部と親和性が高い。 今回の事件を起こして胡錦濤政権を国際非難にさらし、同時に東シナ海における中国海軍のプレゼンスを得るという一挙両得を狙ったのではないか。 ぼくにはそんなふうに見える。 日本に対して強気な態度に出ている胡錦涛政権。 けれどもその本音は日本をやっつけたいというよりは、弱気な態度に出て国内世論を敵に回したくないことにある。
次に「反日デモ」。
まず中国の歴史的に見て「反日活動」の元凶は常に国内問題にある。 かつての日華事変もそうだった。 日本をだしに使って政敵である国民党政府を戦争に巻き込み、相討ちで弱ったところに内戦に持ち込んで勝利したのがいまの共産党政府。 諸説あるが、だいたいここに落ち着く。
中国では民衆によるほとんどのデモが禁止されているが、反日運動だけは別。 そもそも共産党政府の成り立ちが「悪い日本を懲らしめた正義の味方」ということだから、「日本を批判すること = 政治的に正しい」ということになる。 当局としても、政治的に正しいことをしている学生を、他の反政府デモのように力づくでねじ伏せられないのだ。
とはいえ、デモ学生にしてみれば物申したい相手は日本ではない。苦労して大学に入ったのに就職できない雇用格差であり、手が出ないほど高騰した住宅バブルだ。 あるいは大都市のために地方が犠牲になっている地域格差である。 「反日」をデモの口実にし、政府に不満を爆発させているのだ。 尖閣諸島問題なんて彼らの生活にはなんの影響もない。 ましてや日本や日本人に傷つけられた実害もない。 尖閣諸島がどこにあるのかも知らぬままデモに参加しているのが実情である。
つまり、どちらにしたって真の敵は日本ではないということだ。
とはいえ国民の意識調査では、日本においては「中国人が嫌い」なひとが大半で、中国では「日本人が嫌い」という人が大半になった。 真相がどうあれ、世論はかくももろいのだ。 そもそも、ひとは自分のことを嫌う人を嫌いになるものだし、好きな人を好きになるものである。 国もまた、人なのだ。
日本人が中国人を嫌う理由は他にもある。
例えばいまの不況は中国が原因じゃないかと疑う向きもある。
たしかに中国製品がごろごろする現状を鑑みれば、国内産業が淘汰された理由をそこにみるかもしれない。 価格競争に敗れ、倒産した会社の社員にしてみれば「奴らに職を奪われた」と思うかもしれない。 かつてアメリカ人が日本人に対してそう思ったように。
しかし実情を見れば、日本人が中国からモノを買うより、中国人が日本からモノを買うほうが多い。 つまり、いまでも日本は中国に対して貿易黒字である。 その差(黒字幅)は2007年度で2.7兆円。 2008年は2.3兆円とすこし下がったものの、2002年からずっと右肩上がりである。 減るどころか、数年で5倍以上も伸びているのだ。 なぜなら「豊かになった中国人は日本製を買う」からだ。 それも中国で作られた日本製品より、日本で作られた日本製品を買いたがるということだ。
しかも売れているのはハイテクものばかりではない。 むしろ食料品やお菓子などの加工食品が売れている。 中国に進出した日本のコンビニは好調だが、こうなるともうコンビニごと食料品が売れているといった感じだ。 「リッチになればなるほど日本製品が売れる」というのは、他のアジア諸国で多く見られる例だけど、中国もまた例外ではないということ。 人口にものをいわせてその規模も膨大だ。 中国の中流階級はすでに日本の人口を超えているというから、東アジアに日本がもう一つ増えたといった感じの経済規模である。 これはもう、すさまじい。
「国際競争力をなくした」と悲観にくれる日本である。
けれども日本の貿易黒字は変わらず凄まじい。「日本脅威論」が台頭し、ジャパン・バッシングたけなわだった90年代初頭の貿易黒字額は7兆円程度。 あの頃より減っちゃったんじゃないかと思われている貿易黒字幅は、実際のところ2009年度で13兆円である。 減るどころか、倍に増えているのだ。 ピークの2007年度はなんと25兆円もあった。 パッシングだのナッシングだのと言われている最近の方がずっと儲けちゃってる。 メディアはなぜかこのことに触れないが。
今の日本の不況は経済問題でなく、人口問題である。
お金を稼ぎ税金を収める総人口が減っているのが原因だ。 15歳から65歳までの人口が増えれば好景気になるし、減れば不況になる。 ただそれだけのことだ。
その数、高度成長期の1970年には7150万人であった。 バブル前夜の1985年には8250万人いた。 1995年には史上最高の8710万人になった。 経済収支も史上空前であった。 それがいまでは8200万人に減った。 減り始めたのだ。 これからも減り続け、二度と増えることはないだろう。 それが日本の現状だ。 その深刻さに比べれば、リーマンショックなど蚊に刺された程度のことだ。 極端にいえば、だけど。
▲ 1995年をピークに年々下がり続ける人口ボーナス(単位は万人)
お金を稼ぐ人が減れば、使う人もまた減るのである。
衰退の一途。 そんな言葉も浮かんでくるけど、それは日本にとどまろうとするからだ。 積極的に外国に出ていくか、積極的に外国から取り込むかだ。
対立は何も産まない。
中国の真の敵は日本ではないし、
日本の真の敵もまた、中国ではないのだ。
長い記事にお付き合いいただき、ありがとうございました。
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