仕事帰り、時計はすで日付をまたいでいる。
ぼくは最寄り駅そばのラーメン屋のカウンターに座り、
みそラーメンをすすっていた。
そのとき・・・
「ああ、もうダメだー!」
と突然、しぼり出すような声。
声の主はとなりに座る男だった。
それとなくちらりと横目でうかがえば、
机に突っ伏して肩を震わせている。
ダークスーツを身に着けた40代前後の男。
目の前にはビールとギョウザの皿がみえる。
よほどのことがあったのだろう。
3月といえばほとんどの会社にとっては年度末。
人事の季節である。 自殺者が増える季節でもある。
いつの時代も働き盛りの世代はたいへんである。
こと近年においては、出口の見えない不況時でもある。
うつ病などの精神疾患にかかる人口も急増している時世だ。
いまや数字ばかりで評価する風潮が強まった。
自分勝手な人ばかりが評価され、得をするともきく。
まじめに働いていればそれで評価される時代ではすでに、ない。
管理職のもっとも大事な仕事は、
いまもむかしも変わらず「人を育てること」だ。
けれどももう、そんな悠長なこともいっていられなくなった。
人を育てている暇があったら数字を上げろというわけだ。
採用は派遣社員ばかりで社員をとらない企業も増えた。
余裕がないといえばそれまでだが、
ぼくに言わせればそれこそ管理職のボイコットだ・・・
とここまで考えていたとき、となりの男に動きがあった。
目前のケータイをむんずと掴み、やおら立ち上がったのだ。
クララが立った・・!
ハイジの気分のつかのま
男はそのままぼくのうしろを走り、店外へ飛び出していった。
このままではあぶない!
そう思ったのはぼくだけではなかった。
若い店員が、とっさに男を追うように外へ飛びだした。
パタパタパタ・・・と走り去るサンダルの音。
意外な展開にドキドキし、ぼくは男が座っていた席を見やる。
ビール瓶とグラス、ギョウザの皿、そのむこうにラーメンどんぶり
どれも空っぽだった。 悩んでいたわりにはけっこうな食欲である。
店に残るのはぼくと年配の店のおやじ。
おやじは寡黙だが、なぜかジョニーと呼ばれている。
しばらくして、若い店員が戻ってきた。
息を切らしながら、ひとこと。
すいません!ジョニーさん、やられました!
でゆーか
食い逃げだったのかよ!
食い逃げ、ひさしぶりに目撃しました。ある意味これも世相?
←ふふふ、3日連続更新したの何年ぶりだろう? クリック、ありがとさまです。
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