通勤でお世話になっている東急田園都市線は、もうほとんど毎朝といっていいくらい頻繁にダイヤが乱れる。
「皆様お急ぎのところたいへん申し訳ございません・・・」
というアナウンス。 いったい一日に何度謝っているのだろうか? 思うのだけど、 あれだけの長い車両を、しかもいくつもの鉄道会社と共同運行しているのだ。 ダイヤが乱れないほうが奇蹟ではないか。 そもそも他国では電車やバスの時刻表など、ない。 始発と終電時刻が貼り出され、あとは「4分おき」とか「6・7分間隔で運行中」と記されておしまい、である。
さて、車内や駅構内アナウンスで流れる「遅れの理由」に、ちょっと気になるアナウンスがある。「線路に人が立ち入っていますので、安全確認が出来るまで発車を見合わせています」というのが、それだ。
なんで線路に人が立ち入ってんだよ!?
ただでさえだれもが朝は機嫌が悪い。 加えて満員電車のうえに、遅刻だって危ぶまれてるのだ。心の中でそう毒づく乗客は少なくないだろう。 だけど、理由を知れば「心の中で」ではもう、すまないかもしれない。
なんと理由は、”痴漢”なのだという。
痴漢と疑われた男が、駅員や警察に捕まらないよう線路に飛び降りて逃げているときに、このアナウンスを流すんだそうだ。
卑劣な痴漢行為。
犯人は断固処罰されるべきだと、思う。
けれども、先日の大学教授のように「えん罪」というケースもある(以前の記事)から、話はそう簡単ではない。
96年頃までは科学鑑定や目撃情報などの裏付けがなければ、疑われても起訴されることはなかった痴漢事件。 しかしこれでは被害を受けた女性が泣き寝入りする原因になりかねない。 その反省から、こんどは被害者の一方的な証言だけで客観的な証拠がなくてもすぐ逮捕、ということになってしまった。
その結果、痴漢事件の件数はとんでもなく跳ね上がった。
- 1990年 (客観証拠が必要だったころ) 1,080件
- 2005年 (客観証拠を不必要とした以後) 8,018件
15年もの間に、8倍も痴漢行為が増えたというのもすごい。 どんだけスケベが増えたんだよこの国は! てな感じだ。
でも冷静になって思えばやはり不自然である。
じゃあ、実態はどうなのか?
ぼくが想像するに、痴漢事件そのものは年間8千件どころか、その倍くらいはあるんじゃないかと思う。 現在も、20年前もだ。
痴漢そのものは1万5〜6千件あるが、このうち被害者や第三者の証言によって被疑者が駅員につき出されるケースが8000件。 被疑者はその場で逮捕され、一部の例外をのぞけばほぼ全員有罪となるのが、直近の現状なのではないだろうか。
とはいえ、「つき出された男たちのすべてが真犯人ではない」のもまた事実。 つまり何割かは真犯人の代わりに「濡れ衣」を着せられたまま留置場にぶち込まれるということだ。
その意味では、彼らもまた被害者なのである。
しかし真犯人を捕まえるのは容易ではない。 きちんとした初動捜査や証言収集をまともにやっていたら、捜査官は今の3倍いても足りないだろう。
結果、被害者が泣き寝入るか、被疑者が泣き寝入るかのどちらかなのだ。 被疑者としては、してもない痴漢行為を「した」と嘘をつけば前科一犯ですぐに出られるけれど、「していない」と通せば、何年も拘束される。 この世界においては、正直者は救われないのだ。
先日ようやく逆転無罪を勝ち取った大学教授、がしかし、ろくに反論もできずに留置場に放り込まれ、膨大な裁判費や弁護士料金をむしりとられ、世間から後ろ指を指され、長年築いた信用や人間関係はズタズタになってしまった。 念願かなって助教授から教授に昇進した直後のことだったそうだ。 60のときに「痴漢をされた」と駅員につき出されてから一審、二審ともに有罪判決。 負けずに上訴して最高裁で無罪判決。 このとき、すでに63歳になっていた。
彼はいつものように、ただ電車に乗っていただけなのだ。
ぼくや、あなたと同じように・・・
こうした現実を鑑みれば、今の「女性専用車両」だけでは痴漢事件は防げない。 はなはだ情けないのだけど、いっそ、車両を男女別に分けてしまうべきではないのか?
男性はブルーの車両で、女性はピンクの車両というふうに。
男性専用車両のむさ苦しさは相当なものだろうし、理由を知れば世界中の失笑を買うことまちがいなしだろうけど、背に腹は代えられない。
やれやれ・・・
せっかくなので、ついでに「携帯電話利用者専用車両」もぜひ!
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