ちょっと気になる夢を見た朝は、内容を覚えておかねばと頭の中でしばらく反芻するクセがぼくにはある。 みんなもそうなのだろうか?
けれども反芻しているうちにまた眠ってしまい、まれに夢の続きをみることもある。 ロマンチックな夢ならいいのだけれど、悪夢なら最悪だ。 まあ、どちらにしたって会社に遅刻しちゃうのだけど。
昨夜見た夢もそれなりに印象深かったので、覚えている。
ぼくはどこかの空港でひとりたたずんでいる。
なぜそこにいるのか、記憶にない。 胸ポケットにボーディングパスがささっていることに気づき、ああ、すでに搭乗手続きをすませたのだな、と思う。
さて、どこへ行くんだっけ? と夢の中のぼくは思う。
知らない空港だ。 だとすれば、家に帰る途中なのかもしれない。
でも、どこの家へ?
数年おきにいろんな場所に移り住んだ経歴から、たまに帰る家に迷うことがある。 東京に住んでいたような記憶があるのだけど、あれからどこかへ越してしまった気もする。 わからない。
かといって途方に暮れるわけでもない。 ぼくはといえば、とことん帰属意識がないのだ。
おもむろにボーディングパスをポケットからひっぱりだす。 行き先を見れば想い出すかもしれないと思ったのだ。 けれども、ボーディングパスにはゲートナンバー以外、何も書かれていなかった。 航空会社名が書かれている部分は、でたらめなアルファベットが印刷されていた。 何かのパスワードなのかもしれないし、くじの当選番号かもしれなかった。
しかたなく記されている86番ゲートへ向かう。 それだけが知りうる唯一の手がかりなのだ。 広くて清潔な空港のわりには人が少なかった。 白人と黒人、東洋人が均等にロビーにいる。
出国手続きの短い列に並んでしまった後で、パスポートを持っていないことに気がついた。 昔同じような経験をしたことを想い出す。 焦って辺りを見回せば、86番ゲートは出国カウンターとは反対側にあるではないか。 ありがたい、パスポートがなくてもあそこならいける。
建物のガラスというガラスは、すべてブラウンのスモークがかかっている。 おかげで紫外線は遮断されるが、そのぶん屋内はどこか辛気くさかった。 どこかで水の腐った匂いがする。
登場ゲートの待合室にはそれなりに人がいた。 ぼくはいくぶん安心したが、まだ行き先については知らないままだった。
そばを通りかかったグランドホステスに少し照れながら訊いてみる。
残念ながらお客さま。 と彼女はいう。 テロ防止のため行き先をお答えすることは禁じられております・・・
ずいぶん世知辛い世の中になったものだ、と思う。
ぼくはあきらめて、本でも読みながら飛行機を待つことにした。 空いているプラスチック製のイスをひとつ選んで、腰を下ろす。 座るのは本当に久しぶりだ。 ここ数時間、足を曲げることすらしていない。
けれども、待てど暮らせど飛行機は来ない。
本から顔を上げれば、待合室にいた人たちが、いつの間にかいなくなっていることに気づく。 空港の係員すらいない。
やがて空港内の照明がしだいに落とされていき、ついには非常灯だけになる。
その空港で体温らしきものがあるのは、ぼくとその非常灯だけなのだと知り、途方に暮れはじめる。 窓の外も急速に暮れはじめていた。
帰るところがなくなるのはまだいいとしても、行くべきところがないのはつくづく悲しいものだと思う。
やがて辺りは漆黒の闇に包まれる。 突然静寂がやってきて、空調がとまったことを知る。
暗闇の中で何日も過ごし、ようやくぼくは目が覚める・・・
という、そんな夢だ。
夢占いがあるとすれば、なにを示唆しているのだろう?
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