春である。
会社の近くに有名な女子大があるからか通りには新入生なのだろう女の子たちが、それこそ花びらのようにひらひらと舞うように歩いている。
普段なら弁当を求めるオジサンやキャリアなお姐さんたちで占められるコンビニも、そんな女子大生たちのおかげでまるで生協のようだ。
そのような女子大通りを、「思慮深そうに、デキるビジネスマン」ふうを装い、普段以上に眉間にしわを寄せて闊歩するスーツ姿のオジサンたち。 だがどうみたって鼻の下が高田純次である。
ぼくもその中のひとりに違いないんだろうけど、さすがにこの歳になると20歳前後の女の子は「ひとりの女性」というよりは「娘」。
「もしあのとき子供を作っていればこのくらいかな?」
などと、少々複雑な思いすらある。 もし自分の娘だったら、こんな顔だったろうか? まてよ、こっちかもしんない。 いやいや、こっちのほうがいいな。 とだんだん妄想めいてくる。 そのうち、女の子のひとりから
「も、もしかして、お父さん・・・!?」
なんてことになったらどうしよう? と思う。しかもその娘、よりによってヤクザの愛人だったりするのだ。 20年ぶりの愛娘との出会い、しかしその感慨にふける猶予はない。 誰との子だったんだ? 的なことはさておき、ともかくヤクザと縁を切らせる方法について思案する。 やっぱり事務所に乗り込んでいって指を詰めるしかないんだろうか? 困ったなあ、と思う。 小指がなくなっちゃうと、ドラムスティックが握りにくくなってしまうのだ・・・
とここまで考えていたとき、小さな異変に気がつく。
コンビニのレジ前にたむろする女の子集団が、怪訝そうにこちらを見ていたのだ。 どうやらしばらくぼくの視線はその辺りに漂っていたらしい。
「い、いや、娘が・・・」
言い訳にならない言い訳を口ごもりながらバツ悪く、足早にコンビニから立ち去ろうとするぼくの背中に、店員の声がささる。
「お客さま、お弁当をお忘れですっ」
暖めてもらうんじゃなかった、と少し後悔するのだった。
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