「男子禁制」って聞くと、ちょっとドキドキする。
つい、女風呂や女子更衣室なんかを想像しちゃうからかもしんない。
「お稽古教室」は必ずしも女性に限ったものではないけど、参加者のほとんどが女性であったりする。 事実上の「男子禁制」スポットである。
「お稽古ごと」がふたたび静かなブームなのだという。
「ふたたび」といわれても、前のブームがいつだったかぜんぜん知らないんだけど、とにかくあるわあるわ、フランス料理教室やフラワーデザイン教室、フラメンコ教室にフラダンス教室、テニス教室に日本舞踊教室・・・ 思わず途中で眠ってしまいそうなくらい、あげればキリがない。 知り合いの奥さんもこの手のお稽古教室にいくつも通っているらしく、彼も「忙しいんだか、ヒマなんだか・・」などと漏らしていた。 家計における「カミさんの自己啓発費」がバカにならないんだそうだ。
どうやら女性は、25歳を過ぎるにあたりとたんに自分に養分を与えてしまいたくなるものらしい。 「このままオシャレや旅行や飲食ばっかりにお金を使っていていいものか?」と、疑問を持たれるのかもしんない。 そういえば定年後の男女を見比べても、女性のほうが社会適応能力において男性のはるか先を行く気がする。
しかし、である。
女性の集まるところ、華やかさだけではない。 そこには摩擦が、嫉妬が、角質が、いや確執が、たっぷりと渦巻いていそうだ。
「ほんとうにアヤ子さんってお上手よねえ!」
彼女たちは、事あるごとに賞賛の言葉を忘れない。 それは必ずしも本音でないところに、人の業の奥深さを感じてしまう。 講師や先生に気に入られようと努力するのは良いとしても、それはそれで摩擦の原因にもなる。 ましてや相手が若いオトコともなれば、切磋琢磨というよりは、ただの「火ダネ」である。
もとより向上心が強いのである。
フラワーデザインのような、ぜんぜん勝負的要素のない項目であっても、”センス”という競技種目を見つけては争ってしまうのが彼女たちの向上心だ。
香港やドイツなど、海外においては「日本人倶楽部」が主催する数々の「お稽古教室」がある。 たいていは平日の昼間の時間帯であるから、生徒はもちろん主婦である。 あの、駐在員の奥様たちである。 国内ではあまり目立たなくなった「ザマスなかんじ」の人たちだ。
日本人倶楽部の在る最寄りのカフェやレストランでは、そんな日本人主婦たちの「放課後」をかいま見ることが出来る。 国の東西にかかわらず、主婦たちは集まっては「お茶会」が開かれるものらしい。
「バーバラったら日焼けして、どこか行ってきたの?」
「知ってる? パウラったら年下と不倫してんのよ」
などと盛り上がるドイツ人主婦たちの姿、目を転じれば別のテーブルでは日本人主婦とおぼしき人たちだ。 彼女たちはいやがおうなく目立つ。 たとえ近所であっても、ファッションに手を抜かないからだ。 ひとり一人は礼儀正しくおとなし目の彼女たちも、ひとたび集まれば豹変する。 BGMを突き破って日本語が店内にこだまする。
「さすがは佐藤専務の奥さん、いいセンスしてるわぁ!」
「田中課長の奥さんって、どこか幸薄い感じしない?」
なんと、彼女たちは互いにダンナの肩書きで呼び合っているのである。 会社のヒエラルキーは、かくも影響するのだ。
ともあれお茶会ですらそうなのだ。 肝心の「お稽古教室」に、これらの序列が影響しないはずがない。
香港に住んでいたころ、ある人から頼まれて一度だけ、在香港日本人倶楽部の「パソコン教室」の講師を勤めたことがあった。 もちろん生徒は日本人主婦のかたたちだ。 ひとクラス30人、この手の教室では人気のコースらしかった。 30人もの主婦が、パソコンの前にずらりと座る光景は、なかなか壮観である。
「エコひいきと見られないよう、十分気をつけてください」
担当の人にそういわれ、はじめ何のことだかわからなかったのだけど、授業をすすめていくうちに、だんだんその意味が分かるようになった。
「センセイ、ここんとこわかんないんですぅ」
その若い主婦の質問に過敏に反応するのは、ぼくではなく、やや年配の奥様であった。
「他に大勢いるのよ! 先生だって忙しいんだから」
と即座に割って入る。
「いや、わからなければどんどん質問して・・・」
ふつうに言ったつもりだったが、次の瞬間ぼくは凍り付いた。
年配の奥様と、その周囲を囲むように座っていた女性たちの目が、一斉にぼくを睨みつけていたのだ。
主婦もコワいが、独身女性もそれなりにコワい。
「お稽古ごと」のなかには、何かしら「花嫁としての価値」を高める性質のものもある。 昔でいう「花とお茶」、今ならさしずめ「フラワーアレンジメントとフレンチ料理教室」の類いがそうだ。 そのようなクラスでの雑談タイムで、たとえば田中さん(仮名)が目をキラキラさせながらこう宣言したとする。
「こんど結婚することになったんです」
カリキュラムはまだ途中でも、ある意味これは「アガリ」なのかもしんない。 他の生徒さんたちは、もれなく祝福の言葉をかけるのだろう。 もとより向上心の強い人たちなのである。 とくに結婚に結びつく条件においては、オトコのそれとは段違いにパワフルだったりしそうだ。
だから、田中さん(仮名)が自分より年下だった場合、祝福のコトバのあとにつづくこんなつぶやきがコワい。
「そんなに軽々しく決めちゃっていいのかしら?」(つぶやきのわりには字がでかいけど)
オソロしい・・・
素人風情で「男子禁制」の場に足を踏み込むべきではないのだ。
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